子どものころから、眠りに着く前、暗い中で目を閉じると、瞼のうらかわに人の顔が見える。
 
 幼い子どもがあどけなく笑う顔であることもあるが、多くは、世もなく悲しむ顔、苦しみもだえる顔、恐ろしいほどの恨みや怒りが漲る顔。鬼の顔だ。

 刻々と表情は変わり、さらに、さっきまで老婆だった人が、若い女性になり、老人になり、と、別人になっていく。

 恐ろしい顔ばかりだけれど、不思議と怖くない。
 今の顔を覚えておくことができたら、書き残してみたい、という衝動だけが沸き起こる。

 あわてて明かりをつけ、紙に書きつけようとすると、砂絵が風に吹き消されるように消えていく。

 子どものころから、この人々の顔は、私の脳が創っているのだということを感覚的に知っていた。

 また、私の脳の情動をつかさどる部分は、怖いという反応を示さず、すなわち、何とかしなければという反応を引き起こさず、
「これほどの表情をする悲しみやつらさとはどんなものなのか。」
などとぼんやりと考えていた。

 瞼の裏に見える感じすらも作られていることだ。
 脳みそというのは面白いことをするものだとも思っていた。

 あのような表情がふさわしい出来事は、地獄にあるのではなくこの世の中にあることを知り、そしてそのとき人は鬼になることも知った。
 私の瞼の裏の人たちは、昔の人が鬼と呼んでいたものだ。

 鬼は人の中にいることを、みんな知っていたに違いない。


 
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by mayumi-senba | 2005-05-02 12:47 | 自分のこと
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