ほんまか?

 小学校にあがる前、私は一時近所のお寺に夢中だった。

 いつも薄暗くて広いお堂の奥には、金色の仏像がぎっしり立ち並んでいる。その合間合間に今となっては思い出せない、わけの分からない雑多なもの(すみません、Kさん)が所狭しと並べられていて、小さな私にはワンダーランドだった。

 あまり私が遊びにいくのがうるさかったのか、住職はある日私を呼んで地獄絵図を広げて見せた。血の池地獄に、針の山、火の海。そこには悶え苦しむ人々があたり一面に書き込まれている。

 住職は私に言った。
 「あんたも悪いことをしたり嘘をついたら、極楽に行かれへんで。嘘をついたら地獄に行って閻魔さんに舌を抜かれるんや。それから、ホラ、この人らのように痛いめに合うで。それもずっとや。いつまでゆうことあらへんで。終わらへんねんで。」

 わたしは腰を抜かすほど驚いた。

  オネショを汗だと言い張ったことや、行ってはいけないと言われている所に何回も遊びに行ってることなど、「悪さ」の数々が頭に浮かんで、目眩がしそうだった。

 もう、遅い。
 なんでもうちょっと早よ教えてくれへんの?と住職を恨めしく思っているのに、住職は私の恐怖も驚きも知らず、暢気にこう言うのだった。

 「ほら、立ち木に見ると書いて、親と読むんやで。親は子どものことをいつも心配してこんな風にしてみてくれてるんや。ありがたいもんや。大事にするんやで。」

 今、そんな事を言ってる場合ではない。
 私の家族は、私はもとより祖父母に両親、妹に至るまで嘘をついてないものは一人だっていない。
 父は、私とそっくりな顔をしていながら、
 「お前は川で拾て来た子やから、悪いことしたら橋の下に捨てるで。」
と園児にも分かる嘘をつく。祖母は、
 「○○ちゃんには黙ってるんやで。」
とこっそり少ししかないお菓子をくれる。もちろん妹にも同じことをしている。祖父が嘘をついていないはずがない。母は、嘘のようなホントのようなことばかり言う。
 うちは家族そろって地獄行きではないか。舌も抜かれるではないか。

 私はその後数日にわたって夜な夜なうなされていた。地獄の鬼とチャンバラで戦っている夢まで見た。昼間も地獄のことばかり考えていた。

 そんな日が続いて精神的にくたくたになった私は、ある日、湯舟に浸かっているときはたと気がついた

 「あのボンサンは見たことあるんか?あのボンサンは生きてるけど一回死んできたんやろうか。一回死んだらもう絶対に生きかえらへん。そのかわり、今度は人間以外の何かに生まれ変わるんやて言うてたな。エエ子にしてんと、今度生まれてきたときはアリにになるかも知れへんて。・・・・・おかしいな。あのボンサン嘘ついてるんと違うか。そしたら自分も地獄に落ちるやんか。」

 園児はこの論理矛盾に自力で到達した。
 恐るべし。園児でも苦しみに苦しみぬくと、一転して自分で違う風景を見出すのだ。

 それ以来私は、大人から何を言われても、
 「ほんまか?」
と思う子になってしまった。






                       ・・・・・・・・・・・・・・・ほんまか?
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by mayumi-senba | 2004-05-07 22:30 | 自分のこと
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