投げてやろうか

 息子がまだ小学生のころ、テレビから、アニメの主人公のような声で、
 「こどもを殺したいと思ったことがあります。」
というようなことを言っているのが聞こえた。顔にボカシが入っているが、聖子ちゃんカットで、ピンク色のフレアスカートをはいている女性が映し出されていた。

 その時たまたま息子がそばにいて、
「母さん、信じられないな。自分の子どもを殺すって。」
と言った。
 
 「母さんは、ベランダから投げてやろうかと思ったことがあるよ。」
と答えると、息子は絶句してしまった。嘘ではなかった。

 以前にも書いたが、本当にいつまでも起きている赤ん坊で、私は毎日極度の睡眠不足。
 しょうがないので真夜中にドライブに連れ出すと、その間寝ているがうちに着くと起きて
 「遊ぼう。」
と言う。
 そんなときには、 
「投げてやろうか。」
と思う。思うがもちろん投げない。思うことと実行することの間には大きな距離がある。

 一瞬そんなことを思うのと、息子がかわいくてたまらないということとは、ちっとも矛盾しない。

 私は、人間としても、母親としても、さほど我慢強いほうではなく、思慮深いほうではない。
 そんな私が、それでも、息子がかわいい。努力してかわいいわけではない。
 いったん寝ると、何があっても起きなかった私が、隣に寝ている息子が動いたり、子猫のように「にゃあ」とないたりするだけで眼が覚める。私はそれだけでも自分に驚いていた。
 どんなに疲れていても、保育園のお迎えに行くときの嬉しさはかわらなかった。
 でも、母親も人間なんだから、腹が立つことは腹が立つ。
 ときに「投げてやろうか」って思ったからと言って、別に驚くことは無い。実際に投げることは無いんだから。
 
 そんなことを、私は小学生である息子に言った。
 理解できるかどうかということはあまり考えなかった。
 息子はとにかく、何も言わなかった。
 そんなことがあったことを、覚えているだろうか。
 
 
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by mayumi-senba | 2005-11-23 23:23 | 息子
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