息子がある日、言った。
「母さん聞いて。僕びっくりした。」 その内容。 あるところに男の子がいて、とても優秀な子であったがうちが貧しいために上の学校に上がれなかった。彼は、学問をあきらめてまじめに仕事をするかたわら、数学の独学を生涯の楽しみにしていた。 そして数十年の月日が流れ、彼が初老とも呼ばれる年齢に達したころに、ついに世紀の大発見を成し遂げた・・・と思ったらしい。 その発見とは、二次方程式の解き方であった。ご存知のとおり、中学2年生で習うことである。 息子は、 「悲しい話だな。」 と言った。私もつい、 「人間が一人の力で一生かけてできることというのは、この程度のものなんだよね。」 と答えた。 しかし彼は、ポンと教わってしまった私たちが味わうことがなかった、途中のもどかしさやひらめきや、そのひらめきが的から外れていたときの落胆を楽しんだだろう。 当たり前のことだが、ポンと教わってしまった私たちと彼のどちらがより数学を楽しんだことになるのかわからない。彼の数学が道楽なら、私が学校で習った数学も道楽なのだ。その証拠に、社会にでてから二次方程式の解き方を知っていたために役に立ったことは一度もない。息子に聞かれて 「知ってるよ。」 と答えられた、という程度のことだ。 彼を単にかわいそうな人と見るかどうかも、子どものメルクマールになるように思う。
by mayumi-senba
| 2004-05-15 14:10
| 息子
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