女子には教えない先生

 高校2年のときだったか、物理Ⅰの授業で、私は、「まったく分からない」、ということを初めて経験した。

 まったくわからないというのは、言っていることが分からない、のではなくて、音声として認識できない。どんなに耳を澄ましても、先生が日本語をしゃべっているのか広東語をしゃべっているのか分からない。
 小柄な中年の男の先生で、ぼそぼそと口が動いてなにやら黒板に訳の分からない式を書いている、という、チャプリンの喜劇を見ているような光景だった。

 思い余って先生に、
 「先生、分かるように教えてください。」
というと、先生は、
 「僕は女子には教えません。」
と言った。

 私はその先生がいっぺんに好きになった。

 あ、この先生は、この時間女子は何をしてもいいといってくれているんだ。他の教科の宿題をしようと、寝ようと、かまわないんだ。

 私は物理が結構好きだったので、結局その時間は物理の参考書で自分で勉強することにした。もちろん宿題もしたし、昼寝もした。
 先生は何も言わなかったし、私が何をしていようと関心などないようだった。

 寝るにしても勉強するにしても、不思議に自由で充実した時間だった。

 名前も覚えていないけれども、とても印象に残っていて、私にとってはありがたい先生だったといまでも思っている。


 
 追伸:男子も好きにしていたと思います。

 

 
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by mayumi-senba | 2004-07-22 20:17 | 疑問のまま
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