私が初潮を迎えて間もなく、その時期の自分自身の扱いに未だ不慣れな頃、母が、何時になく近くに身を寄せて小さな声で、しかし、しっかりした口調で言った。
「女の子はお嫁に行くまで男に身を許してはいけません。 女の子には処女膜というものがあって、初めてのセックスで破れてしまう。そうなると、もうお嫁にいけなくなる。男は処女としか結婚しない。 処女かどうかは男にはわかってしまうから、隠しても無駄。」 30数年前のことだが、隔世の感。 生理痛で落ち込み気味の私の気分はいっそう沈鬱なものになった。 母の様子がいつもと違って妙な迫力があり、まだ小学生であった私は、違和感を感じたが、返す言葉を持たなかった。 その頃の母は、姑やしょっちゅう遊びに来る小姑家族に囲まれ、一日中、夫や娘以外の人間も含めて大勢の世話をしており、どう見ても幸せな女に見えなかった。 ただ、わずかな時間、姑や小姑の目のないところで父のそばにいることだけが、子供心にも彼女が幸せそうに見えた時間だった。 そんな膜一枚で人の価値を量る男の嫁になりたいだろうか。 そもそもこんな境遇になるために守らなければならない処女膜とは何か。 母の言うことすべてが当時の私には不合理に思えた。今でも不合理だと思う。 けれども、母にとっては、言っている内容が不合理であっても、娘にはしっかり教えておかなければならないことだったのだろう。 私はあまり母の言葉に縛られる子ではなかったので、 「またおかしなことを言っている。」 というようなもので、ことさら反発しなかった。 同じ行為を、「きれいの穢いの」といわれても、不思議なだけだ。 そもそもその頃の私にとって、セックスそのものがグロいものであり、 「あんたがグロイ行為をした証拠が私であって、そのあんたが証拠に向かって何を言うねん。」 と思っていた。 それもこれも含めて、私にとって母はずっと不合理の象徴であった。 追伸:妊娠中も出産後も、私は証拠を連れて歩いていることになり、正直自分ひとりで恥ずかしい思いをしていた。
by mayumi-senba
| 2004-07-31 08:44
| 自分のこと
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