かなしい光景

 海が見たくて、プリンスホテルに出かけた。

 1階のティーラウンジからだと、遠くは見えないけれど、私が見たい水面のさざ波や海の流れが見える。

 そして、海沿いには釣りをしたり散歩したりしている人がいて、それを風景として見つめていても失礼にならないような気がする。それがいい。

 今日は、犬の散歩をする人や、結婚式の後の記念撮影をする人たちに交じって、幼稚園くらいの女の子がお父さんと思われる男性と笑いながら歩いていた。そこを歩きなれているらしくて、珍しいものを見たという表情を見せることがなかった。

 あの子にはいつかこんな風に父と散歩した日々のことを、何と表現していいかわからない感情とともに思い出す日が来るのだろう。

 そう考えてしまって、私のほうに何と表現していいかわからない感情が湧きあがり、不覚にもなみだぐんでしまった。

 彼女の今の幸福を祝福する気持ちと、これからの幸せを願う気持ちと、そしていつか必ずやってくる父親との別れの日を思ってしまって、それは私の父が亡くなった日と重なるのだった。

 ただ散歩しているだけで、赤の他人にこんなことを思われているなんて彼女は知る由もないだろう。

 わたしも知らない間にこんな形でだれかの情動を激しく揺さぶったことがあるのだろうか。

 もしそうなら、それだけでこの世に生まれてきてよかったと思えるな。

 そう言えば、祖母は私を見てよく泣き笑いをしていた。あの頃は、意味がわからなかったけれど、あれがそうだったのだろうか。

 古語の「かなし」にはかわいいとか美しいという意味があるが、この語のもつ色合いを私は愛する。
 
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by mayumi-senba | 2009-02-09 00:15 | 自分のこと
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