水の中の空

夜明け -AM5:38-

  「となりのトトロ」の主人公の妹、メイちゃんと同じくらいの年頃、ある雨上がりの日、いつも通る帰り道に大きな水たまりができていた。
 幼い私には、池のように見えた。

 風もなく、あたりに人通りもなく、水面は鏡のように静かだった。
 水たまりは道の幅いっぱいに広がっており、そこを通らなければ私はうちに帰ることができない。

 通い慣れた道なので、その水たまりが浅くて、私がはいている長靴に水が入ることはないであろうことはわかっていた。

 しかし、水面を覗き込むと水底に雲が漂っていた。
 少し浅めのところにあるように見えるものもあれば、深い深いところにあるように見えるものもある。
 その背景にある水の中の空には、底がないように見えた。

 ここに足を踏み入れたら最後、底のない池に吸い込まれるように沈んでしまうのではないか。

 という恐怖が私の心に湧き起こり、身動きが取れなくなった。

 いや、でもここは土が浅く掘れているだけで、水たまりがそんなに深いはずがない。

 でも足は動かない。

 どれぐらいの時間そこで身動きできずにいただろうか。

 その私を尻目に、近所のおじさんが自転車でその底無し池を通り抜けた。
 素早く渡ったら沈まなくてすむのか。
 思い切って足を踏み入れ、疾走したら、不思議なことにその池を渡ることができた。
 不思議なことに向こう岸に辿り着くことができた。

 振り返るとやっぱりそこには底無し池があって、水の中の雲のさらに深い深いところに、水の中の空が広がっていた。

 
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by mayumi-senba | 2004-08-26 19:49 | 疑問のまま
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