マザコン気味の父は、いわゆる遊び人だった祖父のためになかされた祖母の姿を見ていたので、祖父とはずっと折り合いが悪かった。ということになっていた。
その父だって、世間で言うと立派な遊び人に入るのであって、いろんな遊びのほかにも、子どもである私たちすら女の人の影を感じていたものだ。 さらに言えば、祖母が祖父のために泣かされた、ということは何回聞かされたかわからないが、 「おばあちゃんが~?」 という感じでリアリティはまったく感じられなかった。 祖父は祖父で、あるときから運転をぱったりやめたと思ったら、どこに行くにも自転車で、冬には耳あてとダッフルコートという小粋ないでたちで出かけた。 時々わけのわからないものを買ってきて私たちに食べさせてくれたが、あくまでも自分が食べたいので買ってきて、ついでに孫にもやる、という感じだった。 気分が乗ると、都都逸が出る。 そんな、生きていることを楽しんでいることが子どもにも伝わってくる感じの楽しい爺さんになっていた。 なもので、父と祖父の折り合いの悪さは私たち子どもにはさっぱりわけのわからないことであった。 そんな祖父が亡くなってから、父が漏らしたことがあった。 「親父に冷たくあたっていたことを後悔してるよ。」 私は、父のこんな形の「後悔」が嫌いではない。 ある種の後悔は、不遜な言い方をすれば、人間にだけ与えられた味わい深い、形容しようのない心の動きだ。
by mayumi-senba
| 2005-11-03 17:10
| 自分のこと
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